航空業界の安全性対策に学ぶ、医療現場を「学習する組織」に変える3つの視点

50年の伝統を有する福岡大学医学部の皆様へ、航空業界の安全性の取り組みを事例に、学習する組織、安全への取り組みのヒントを探る講義+ダイアローグを実施しました

航空業界の安全性対策に学ぶ、医療現場を「学習する組織」に変える3つの視点

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開催日時: 2022年9月2日(土)10:00 - 15:00
主催、コーディネート:KAMA-CROWD
開催場所: コミュニティ・スペース SALT(福岡)
参加人数: 9名(福岡大学医学部 麻酔科学教室の方々)
ファシリテーター: 小野和彦、西恭平

toiee Lab ファシリテーターの小野和彦さんの専門である「航空業界の卓越した安全性」の裏側にある取り組み、リーダーシップ、ラーニングオーガニゼーションの考え方は、多くの企業経営者やマネジャーから「興味深い」と言われてきました。

今回は、航空業界の安全対策への具体的な取り組み、リーダーシップ、組織づくりを2時間の講義と、ダイアローグを組み合わせて構成しました。良い話を聴くだけではなく、明日から行動に使えるアイデアを討論するセミナーとしました。

開催場所にもこだわり、福岡のSALT様のコミュニティ・スペースを利用させていただきました。コミュニティスペースSALTでは、一部上場企業のクリエイティブチームや、経営幹部がオフサイトミーティングに利用するなど、「非日常」の空間設計がなされており、非常に良い環境でセミナーを開くことができました。

セミナーの目的

福岡大学医学部は、医学全般への理解を深めるために、日々、基礎医学のアップデートと、臨床の2つが密に連携した螺旋型教育を行い、最先端の医療を提供しています。また、基礎・臨床を超えた研究が展開されるよう6つの総合研究室を設置し、広い視野からの研究を進めている、50年の伝統を有する学部です。

福岡大学医学部では、以下のような問題提起をされています。

近年、「臓器の移植に関する法律」の成立や、遺伝子レベルの解析が進んだことによる生命操作などの論議が衝撃的に報道され、医療は単に医学界に留まらず、法律・倫理など深く人間の根幹に関わる問題として探求されなければならない時代を迎えています。 - 福岡大学医学部サイトより

このような状況の中で、リーダーシップを発揮し、患者様に安心して治療に取り組んでいただけるよう、「他分野の領域の知識や、取り組みについても学びたい」とご要望をいただきました。

今回は、生命倫理などの取り組みとは直接関係ありませんが、医療の更なる安全性向上の知見を得るべく、航空業界のマネジメントや、チームビルディング、安全対策への取り組みについて講座を開催させていただきました。

セミナー概要

(1) テーマと進行について

今回のセミナーでは、航空業界の取り組みを3つの側面で解説しました。

  • 具体的な対策
  • リーダーシップ
  • ラーニング

これらの事例を、福岡大学医学部 麻酔科学教室の方々に解説し、ご自身の業界や普段の仕事にスライドして考えていただく趣旨を説明しました。

今回の講義では、単に「良い話を聞いた」ではなく、「アイデアを持って帰っていただく」ことを目的として、ダイローグを実施しました。

Zenlogueを活用して対話を行いました

ダイアローグを通じて、部門を超えた繋がりを生み出しつつ、現場やマネジャーのさまざまな視点を集め、具体的なアイデアから、行動指針の策定につながる対話を生み出すように構成しました。

(2) Good & New 実は・・・

より良い対話や、会場の雰囲気を作るために「Good & New & 実は・・・」ワークを実施しました。このワークを実行した後は、非常に雰囲気が和らぎ、新しい知識を吸収しやすい状態になりました。

(3) 徹底的にオープンな情報共有

航空業界では、情報収集(ブラックボックス、FOQA Flight Operational Quality Assurance(完全な秘匿義務)、LOSA Line Operations Safety Audit(通常運航の観察))を徹底しています。何かミスがあった場合も、操縦士のケアレスミス、不注意とは考えず、

  • このようなミスは、他の操縦士にも起こりうるもの
  • 「わかりづらいシステム、機器、ルール、あるいは教育システムに問題があるのではないか?」

と考えます。『個人を叱責するのではなく、鏡を見て「我々に責任がある」と考える』よう意識しています。それが、事故率の低い(1/8,400,000)安全な運航を実現しています。

「オープンな情報収集と共有」について話し、「ラーニングとは何か?」「リーダーシップとは何か?」などをテーマに、ダイアローグ形式で対話を行っていただきました。

(4) 人間心理へのアプローチ

「イースタン航空401便の事故」「ユナイテッド航空173便燃料切れ墜落事故」「テネリフェ空港ジャンボ機衝突事故」など、過去に起きた事故に共通する原因は、人間の心理特性でした。

  • 意識の集中(没頭)による全体が見えなくなる(時間経過など)
  • 思い込みによって、白も黒に変わる(現実が見えない)
  • 権威に従う反応によって、誰も意見しない(間違っているとわかっているのに)

上記の問題を解決するために、航空業界では、すべての利用可能な人的リソース、ハードウェアーおよび情報を効率的に活用する「CRM(クルー・リソース・マネジメント)」を導入しています。

「CRM(クルー・リソース・マネジメント)」についてお話し、「地位の高いリーダーの弊害とは?」「人間の心理特性を考慮した仕事設計とは?」などをテーマに、ダイアローグ形式で対話を行っていただきました。

(5) シュミレーションによる学習

航空業界では、シュミレーションによる訓練を行います。「徹底的な情報公開と共有」で、世界中で得られた「事例」による訓練メニューが考えられ、訓練を行います(訓練のメニューは、日々進化)。訓練では「チームの力を結集して、解決を図ろうとしているか?」が問われます。

さまざまな「本当にあった、あるいは起こりうる」事例での訓練により、長い経験によって得られる「直感、感性、暗黙知」のようなものがチーム全体に共有され、「知識創造、知識共有」の場が生まれています。

また、「他の人の意見を聞く重要性」「一人ひとりが計画へ参画する意識」「決断」「行動」をすることに繋がりました。チームのエンゲージメントや、コミュニケーションのスキルが格段に上がりました。

「シュミレーションによる学習」について話し、「長い経験に匹敵する情報共有、シミュレーションは、どうすれば可能になるか?」「リーダーは、何をすべきか?」などをテーマに、ダイアローグ形式で対話を行っていただきました。

(6) まとめ、今後に向けて

講義の最後には、これまでの対話を通して得られた「気づき」を、普段共に働くチームメンバーで集まり共有を行いました。そして、そこから「明日からの仕事で使えるアイデア」について考えていただきました。

参加者の声

実際に受けた参加者の方からは、

  • 航空業界と医療業界は、安全性に重要な視点を置くことなど、業界の構造が似ていることも多く、航空業界の取り組みがとても参考になると感じました。今後、取り組んでいきたいと思います。
  • ワークの中で使用した「ゼンローグカード」が良かったです。毎日、ゼンローグカードの中から、一枚選んで、そのカードを名札ホルダーに入れておきたいと思います。そのカードに書かれている「対話の大切な姿勢」を一日意識して、仕事しようと思います。
  • 早速明日から試せるアイデアが浮かんだので、良かったです。明日からチームで実践しようと思います!
  • とても勉強になることが多く、看護師協会に向けても、同じワークを開いていただきたいと感じました。

という声をいただきました。

また、ご依頼をいただいた教授からは、「航空業界で取り組まれているマネジメント、リーダーシップなど非常に参考になることが多く、有意義な会でした。」「ラーニングの重要性にも、改めて気付かされました。引き続き、このような勉強をする機会を作っていきたいと思います。」というご感想をいただきました。

お知らせ

上記のセミナーについて、ご興味がある方はお気軽にお問合せください。

desk@toiee.jp